エクソダス:神と王(EXODUS:GODS AND KINGS, 2014, 英・米・スペイン)

エクソダス:神と王 ―兄弟ケンカ再び,でOK?―


ストーリー:紀元前1300年。最強の王国として名をはせるエジプトの王家に養子として迎えられて育ったモーゼ(クリスチャン・ベイル)は、兄弟同然のような固い絆で結ばれていたはずのエジプト王ラムセス(ジョエル・エドガートン)とたもとを分かつ。その裏には、苦境に立たされている40万にも及ぶヘブライの人々を救わねばならないというモーゼの信念があった。そして、彼らのための新天地「約束の地」を探し求めることに。過酷な旅を続ける一方で、彼はエジプトを相手にした戦いを余儀なくされていく。(シネマトゥデイより)


ユナイテッドシネマ・キャナルシティにて,1人で鑑賞。今日はたまたま近くで仕事。しかも16時前に終わり。上映作品と時間を調べるとちょうどいいタイミング。本当はもっと見たいのあるんだけど…でもインター・ステラ―は終わったし。アメリカン・スナイパーも,セオリー・オブ・エブリシングも,イミテーション・ゲームもまだやってないし。ちょうど空白の期間。まあいいや,リドリー・スコットだし見てみよう,と劇場へ。


…え,これってグラディエーターじゃん。また兄弟ケンカじゃん。舞台がローマからエジプトに移っただけで歴史スペクタクルを背にした兄弟げんかじゃん!世界中の観客が,きっと上映中に何度もそう叫びそうになったはず。

IMAXとか3Dだと違うのか?クリスチャン・ベイルの大ファンだったらまた別の感想が?いやいや…。

この作品はどうみるべきなのだろうか。まず思いつくのはグラディエーターのような歴史スペクタクル・アクション・エンターテイメント。しかしこれは厳しいだろう。ローマがエジプトに代わっただけで,中身はグラディエーターそのもの。続編でもない。

いや,グラディエーターの方がまだ登場人物に魅力があった。マキシマス(ラッセル・クロウ)はもちろんのこと,コモドゥスホアキン・フェニックス),コモドゥスの姉,信頼できる将軍に元老院議員,そして剣闘士団のボス…。物語を構成する人々はみな,味方も敵も個性的で人間的な魅力があった。

主人公をとりまく人間模様はほとんど同じなのに,この作品に登場する人物たちには深みがない。最も象徴的なのがコモドゥスとラムセルの違いだ。コモドゥスはずっとマキシマスを妬み嫉み,憎み恐れてきた。その病的な態度や言動はコモドゥスのキャラクターを確固たるものにしたし,それゆえ彼は敵キャラとしての魅力にあふれていた。

だがラムセスはどうだろう。彼はただのボンボンだ。ちょっと見栄っ張りだけど家族を愛する普通の悪帝だ。兄弟のように育ったモーゼを追放したことにも負い目を感じている。根はいい奴かもしれないけど王の器ではなかったねってぐらい。終盤にラムセスが初めてモーゼを本気で憎み,彼と決別するシーンはそれをよく表している(それ以前には,モーゼを追い詰めることに何かしらの負い目を感じていた)。ラムセスはモーゼに反撃に出るが,それはコモドゥスのように自分が傷つけられ追い詰められたからではない。家族が傷つけられたからだ。…ふつーじゃん。そりゃ誰でも怒るわ。しかもコモドゥスのようにネチネチとはやらない。正面から全力で向かってくる。かたき討ちじゃー!!…彼はコモドゥスのような病的な悪帝ではない。普通の悪帝なのだ。

それから最後にもう一つ。たとえこれが単なるエンタメ作品であったとしても(割り切ってみるべきものだったとしても),それでもやはり違和感を覚えざるを得ない。いや観客は違和感を覚えるべきだろう。いくら「エンタメ」とは言え,人物配置が道徳的にここまで単純な物語を,よくまあ作る気になるな。実在の宗教を,とくに複数の解釈を有する信仰や聖典を扱っておきながら。しかもこのご時世に。エジプトとトルコの公開禁止についてはあまり経緯を追っていないけど,まあ禁止するだろうなとは思う。