【DVD】裏切りのサーカス(TINKER TAILOR SOLDIER SPY,2011,英仏独)

裏切りのサーカス ―最高の悲劇には最高のカタルシス


ストーリー:東西冷戦下の1980年代、英国諜報(ちょうほう)部「サーカス」を引退したスパイ、スマイリー(ゲイリー・オールドマン)に新たな指令が下る。それは20年にわたってサーカスの中枢に潜り込んでいる二重スパイを捜し出し、始末するというものだった。膨大な記録や関係者の証言を基に、容疑者を洗い出していくスマイリーがたどり着いた裏切者の正体とは……。(以上,シネマトゥデイより)


wowowの放送を録画していたものをようやく鑑賞した。2回連続通しでみて,さらにラストの3・4分は10回ぐらいみた。最高の最高です。生涯ベストに入れます。こんな素晴らしい作品を,なぜ今まで見逃していたのだろう…!映画館でみたかったと,まずは激しく後悔。

見どころは多すぎてどの点を言葉にするべきなのかが難しい。俳優の演技について,ストーリーテリングについて,こまごまとした演出について……とくにX'masパーティの懐古シーンについて,などなど。まだまだ考えたいことや語りたいことはたくさんある。だけど圧巻は,なんといってもラストの3・4分。スパイ映画にもかかわらず決して派手ではなかったこの物語を,「LA MER」の曲に乗せて一気に収めにいく。

パーティの懐古シーン。パーティ会場でビル(コリン・ファース)とジム(マーク・ストロング)がお互いを見つけて微笑む。だが先に目をそらすのはビルだ。しかも満面の笑みのまま。まるで相手の信頼を受け止めることができないこととバラしてしまっているかのようだ。残されたジムの顔はビルをやさしく見守っているようでもあり,相手の信頼に対してわずかな疑念を覚えてしまい戸惑っているようでもある。場面は現在に移る。屋外を歩くジムが収容所の庭にたたずむビルの姿を見つけて足を止め,ライフルを構える。ビルもジムに気がつく。するとジムがライフルの標準から目を離し,一瞬だけ二人の目が合う。ジムはすぐに標準に視点を戻す。だがビルはジムを見つめ続ける。今度こそジムの思いを受け入れようとしているかのように。銃声が鳴り,ビルはジムを見つめたまま血の涙を流して倒れていく。もちろんジムも泣いている。(なお,この効果的な「一撃」は映画至上ちょっとありえない場所に命中する!)

リッキー(トム・ハーディ)がどしゃ降りの中で立ち尽くしている。きっと彼も泣いている。ロニーが自宅で窓の外を見ながら煙草を吸っている。ジョージ(ゲイリー・オールドマン)が来ないということは,愛すべきサーカスの男たちにとって,悪い結果となったのだ。そして倒れたままのビル。ジムの時とは違い,今度は二度と起き上がることはない。
自宅に帰ったジョージは玄関で息をのむ。部屋にはアンが戻っていた。動揺してよろめきながらも何とかアンの方へ向かい,彼女を受け入れる。
そして現在のサーカス。権力も女も取り戻し,自信に満ち溢れた様子のジョージが,黒のスーツ,ネクタイ,コート(もちろんメガネも!)でビシッと決めて出勤する。古参のスタッフやピーター・ギラム(ベネディクト・カンバーバッチ)は,さっそうと歩く彼の姿に敬愛のまなざしを送る。そしてラストシーン。会議室のリーダーの席に座ったジョージがどや顔であたりを見渡したところで音楽が終わり,映画も終わる。

誰もが「あぁ,これで終わったのだ。」と納得せざるを得ない力強さがある。悲劇のカタルシス効果をこんなに感じる映画は初めてだ。