マン・オン・ワイヤー(MAN ON WIRE, 2008, 英)

マン・オン・ワイヤー 〜分かっているのに手に汗握る〜



昨日,仕事帰りにシネテリエ天神で観ました。
チケットを買ってすぐに座席に着こうと思ったが,開始まで少し時間があったので,comming soonでも調べようとロビー(といっても大して広くないんだけど)に行きました。すると,ロビーの壁にはたくさんの写真が。
写真は全てフィリップ・プティ氏の写真である。作中で登場するノートルダム寺院での綱渡りの様子,メインとなるワールドトレードセンターでの様子など。またこれらが全てモノクロ写真というのも,二度とないこの瞬間を切り取ったという感じがして美しい。このような映画館からの配慮はとてもうれしいです。これから始まる映画に対して期待も大いに高まります。

中に入ると,お客さんは私を含めて7,8人ほど。2008年度アカデミー賞長編ドキュメンタリー部門で最優秀賞をとったというのに,少しさみしい感じがする。まぁ公開から10日経ってるし,ファンの人はもっと早いうちに観に来るんだろうな。

開始から15分ほど。なんかおかしい。私と同じ列の,座席3,4つほど隣のおじさんがものすごいイビキをかいて寝ている。もうホントに勘弁してくれ。

映画の内容はドキュメンタリー。フィリップ・プティと彼を支えたチームメイトたちの現在のインタビューがメインとなり,そのインタビューの内容に合わせて,再現映像や当時撮影された写真や映像がはさまれていく。

フィリップ氏の技は見事。人間にこんなことができるのだろうかというような技。綱(WIRE)の上を目をつぶって歩く,横になる,ひざまづく,一回転する…。

当然メインとなるのは,今はもうないツインタワーでの綱渡りをどのように実現させたかという部分。何ヶ月もかけて計画をたて,話し合い,けんかをし……そしてついには,ツインタワーにワイヤーがかかる。フィリップ氏が最初の一歩を踏み出すその瞬間,息を呑みました。手のひらはじっとりと湿り,思わず両手を顔に持っていってしまう。

もちろん,この冒険の結果は分かっている。
インタビューに応えているのは,紛れもなく現在のフィリップ氏。この映画のプロモーションであちこち挨拶に回っているらしい。

だけど,もうそういう問題ではない。高さ400メートル,幅60メートルのツインタワーの間にワイヤーが張られ,一人の人間がその上を渡ろうとしているのだ。この文章を書いている今だって,両手はじっとり,心臓はバクバクだ。

終わった後に思ったが,これは映画館でこそ観る映画だ。自宅でDVDで観ても,この緊張感は味わえない。

ちなみに本作では,9・11については全く語られない。それと匂わせるようなことも一切ない。今日「WTC」あるいは「ツインタワー」という言葉は,「9・11」という言葉とセットになっている,といっても過言ではないだろう。どんな言説を拾ってみても,後者の存在を匂わせないような形で前者が登場する文脈なんてあり得ない。……と思っていた。だけど,あの綱渡りの男と9・11とは,全く別なのだ。

上映が終わりロビーに出ると,次の上映を待っている人がかなりいる。入口からも続々と入っている。次の上映作品は,ダリオ・アルジェント監督の「サスペリア・テルザ -最後の魔女-」。なるほど,こっちの方が人気なんだ,と,ちょっと複雑な思いで帰りました。