選挙(2006,日)

選挙 〜政治家だって,人間なんです〜


近所のGEOが旧作レンタル¥100やってます。しかも10月末日私の誕生日までやってるらしい。この機会に観たかった作品を観まくっておこう,と,旧作コーナーにまっしぐら。……とはいかず,やはり新作コーナーの魅力的な作品の数々に思わず立ち止まってしまう。観たい作品はたくさんある。「ダイアナの選択」「イン・トゥ・ザ・ワイルド」「ラースと,その彼女」「フロスト×ニクソン」「エレジー」などなど。が,やはり持ち前のもったいない根性が勝利する。新作を一通りチェックしたら,旧作コーナーへ。
そこで本作「選挙」を発見。えっ?シネテリエ天神で,ちょうど今,上映中の作品ではないか??
よく見ると制作は2006年で,小泉政権真っ只中の時代の地方市議補欠選挙が舞台。うーん,たぶん「精神」の上映に絡めて再上映しているのだろう。さっそくこれを含めて2本借りました。
監督はこの作品の主人公「山内和彦」さんのご友人。山内さんは自民党の公募によって,この市議会補欠選挙自民党公認候補として選ばれた人物。彼が選挙活動を始めて投票の日までの様子をドキュメントしている。
はじめは,頼りなさげなおっさんが自分の名前が書かれた立て看板と拡声器を持って交差点をウロウロしているだけ。あとはやれ駅前演説だ,住宅地だ,幼稚園の運動会だ,地域の祭りだ,支持団体の集会だ…といろんなところへ行き選挙活動を展開していく。基本的にこれだけ。これが投票日までずっと続く。
だけど次第に,人間ドラマのようになっていく。話が進むにつれて山さんの置かれている状況が――例えば事務所でのポジションや(何と,事務所の世話役のおじちゃん・おばちゃんは候補者先生よりもずっとずっと偉いのだ!),党内のポジションや(「小泉さんと2回握手した!」と興奮する山さんにはウケた),先輩議員さんとの関係や,奥さんとの関係などが――明らかになっていく。もちろん,選挙活動の裏側をチラリチラリと垣間見ることができるという点も面白い。たとえば…

・マイクを持つときは手袋,握手をするときは素手
・候補者の奥さんが挨拶するとき「妻です」ではなく「家内です」と言わなければならない。
・事務所から,奥さんは仕事をやめるよう促される。
・党首は末端の候補者の名前なんて覚えていない。

また,ちょうど今と反対の自民党バブル期なので,時代の雰囲気を感じて楽しむこともできる(といってもたかだか3年前だが)。選挙活動においては,自身の政治理念などはなく,ただただ自分の名前と「小泉」「構造改革」を連呼。

しっかし現代の選挙制度とそれを支えるシステムに対して,こんなに皮肉たっぷりの映画を自民党はよく許したな。まぁ,あの事務所のおじちゃん・おばちゃんたちが公開作品をどう見ているのかは知らないけれど。いずれにせよ(?)これは選挙の舞台裏を通じた人間ドラマなのだ。

ちなみに山さん,現在は無所属で,今度は”政治理念”をもって幅広く活動をしているらしい。小泉チルドレンたちはみんな旅立っていくのだ。


もう1作は「12人の怒れる男」。当然ながら文句のつけようもなく面白い密室劇の金字塔。こういう名作,ホントに出なくなったよなぁ。