ヴィヨンの妻-桜桃とタンポポ-(2009,日)

ヴィヨンの妻-桜桃とタンポポ- 〜脚本もよいけどすでに配役で勝利〜



今日は非常勤の授業のため,午後から博多方面へ。16:30には終えて近くのホテルのラウンジでコーヒーを飲みながら今後のことを考える。大学には戻りたくない,先日購入したノートPCのカバーをヨドバシカメラで買わないといけない……うーん,そうだ,キャナルで映画を観よう。調べると17:30から松たか子浅野忠信が夫婦役を演じることで話題の「ヴィヨンの妻-桜桃とタンポポ-」がある。よし,これで決まり。
ストーリーはとても単調。主役の幸(松たか子)という一人の女性の日常における狭い人間関係のお話。個人的な出来事がすべて個人的な出来事のままで終わるという物語。ハリウッドのようにいつの間にか世界の危機に関わってしまっていた…なんてことは起こらない。
肝心の内容はというと、幸が(主に旦那が原因で)苦労してとっても大変なんだけど,天然キャラからみんなに愛されていつも土壇場で何とか危機を切り抜ける。だけど,あくまでも「キャラで」乗り切っているもんだから根本的な解決にはならない。旦那(浅野忠信)もそんな幸のキャラに惹かれたくせに,他人が惹かれると嫉妬する。妄想キャラだから妄想する,頑張るキャラだから頑張る。いつでも問題を抱えたままお互いにキャラで乗り切ろうとする,そんな夫婦の物語。とっても個人的なストーリーです。
夫婦以外の登場人物のキャラクター設定も強力。だから登場人物はとても少ない。たくさんいると個性が豊かになりすぎて個人的な話にまとめることができなくなるからね。まともにせりふのある人物は主役の他には旦那と居酒屋の夫婦,旦那の愛人,旦那のファン,主役の元恋人の6人ぐらい。で,誰も自分の枠(キャラ)から出てこようとしない。プライドキャラだからプライド高い、純粋キャラだから思いつめて傷つく。やべぇ、そう考えると、この映画、まともな人間が一人も出てこない。

強力なキャラクター設定と,キャラを把握できる程度の少ない役者,と言えば,なんだか舞台を観ているようだなぁなんて思う。てことは必然的に,この映画の面白さが役者のよさにかかってくることになる。
松たか子は文句なし。22歳のお下げ髪も,26歳の貧乏若妻も文句なし。本作は彼女のプロモーション映画だといってもいいくらいだ。まぁ彼女の場合は例の「天然キャラ」設定があるからなぁ。
松たか子には及ばないけど,浅野忠信もなかなかよかった。「浅野忠信が考える太宰治」像は,多くの観客が期待した「浅野忠信が演じる太宰治」像に,十分応えるものだったと思う。
妻夫木聡の純情っぽいんだか計算しているんだかわかんない感じ(「ウォーターボーイズ」とか「ブラックジャックによろしく」のイメージね)とか,堤真一のインテリで理論家っぽい感じ(「ビギナー」とか「クライマーズ・ハイ」とかね)の配役も「キャラ」にピッタリ。監督さん、かなりステレオタイプの方とお見受けした。
とにもかくにも配役がとてもよかった=登場人物のキャラと役者のキャラクターイメージがぴったりだったところにこの映画のよさのほとんどがあると思う。


来週には脚本:宮藤官九郎,主演:阿部サダヲ「なくもんか」(2009,日)の試写がひかえているので,そちらも楽しみ。