おとうと(2010,日)

おとうと 〜泣きと笑いのバランス感覚〜


今年二本目の試写。正直言ってあまり期待していなかった。というのも,まぁこれは私の見る目がないだけなのかもしれないけど,とにかく最近の邦画の現代劇にはずっと外されっぱなしで,しかも今回もタイトルからしていかにも”情”に訴える系の匂いがぷんぷんしていたので,どうにも不安な気持ちを押されきれずにいた。ところが,いざはじまってみるとどうだろう。不覚にもちょっと感動して泣いてしまった!期待していなかったのが良かったのかな?

昨年秋の良作「私の中のあなた」に匹敵する面白さだと思う。あの作品も家族や病気を題材にしていたけれど,いやらしさを出すことなく,観る人に気持ちの良い感動を与えてくれた。今の邦画にも,こういう風に家族を扱うことができるのだなぁとうれしくなった。
ではどこが良かったのだろうか。終わってみれば,とにかくバランス感覚がすばらしい
例えば,泣きと笑いのバランス。主人公の吟子さん(吉永小百合)とその娘・小春ちゃん蒼井優)の二人による絹代ばあちゃんへの態度がギャグみたいに冷たくて笑える。二人は面倒な老人をのけ者にし馬鹿にしているんだが,絹代ばあちゃんが馬鹿にされるシーンではどうしても笑ってしまうのだ(お客さんも爆笑)。しかし,この笑いがラストになって生きてくる。作品中で終始馬鹿にされ続けてきたおばあちゃんの最後のセリフ。ここで,これまで笑い続けてきたお客さんが一斉に涙と鼻水をすすることになる。もちろん私も。
また例えば,作中と現実とのバランス。商店街には自転車屋さんと歯医者さんとのオッサン二人組みがいるのだが,この二人が吟子さんのファンなのだ。二人は事あるごとに吟子さんの薬局を訪れて,高価な毛生え薬を注文したり,小春に見合い話を持ちかけたり,あわよくば抜け駆けしようと企んでいる。この二人による吟子さんへの憧れにも似た思いは,そのまま世のオッサンたちの吉永小百合への思いの表れである

配役もすばらしかった。笑福亭鶴瓶さんって,こんなに迫力あるんだとびっくり。この人の本業って落語家?タレント?それとも俳優??とにかくびっくり。また吉永小百合は相変わらずこの人にしかできない,この人にしか許されていない独特の演技で鉄郎の姉を演じる。その他にも有名な俳優さんがたくさん出演して固めている。鶴瓶さんの友人として有名な,あのアイドル(?)も一瞬だけ登場して笑いを誘う。

内容はというと,関西弁寅さん?の人情物語といったところだろうか。