オーシャンズ(2009、仏)

オーシャンズ 〜だまってりゃ最高なのに〜


ドキュメンタリー映画史上、最高額の製作費らしい。なんと70億円。エンドロールを最後まで読めば、世界中の海という海(浜辺や磯部を含む)で撮影していることが分かる。
それにしてもこの作品、お金はもちろんのこと大変な時間と労力と、とにかく莫大なエネルギーが費やされているんだろうという事は容易に想像できる。
とくに印象深かったのは前半のメインであるイワシvsイルカvs海鳥の大戦争だ。何千何万というイワシの大群に、これまた何百というイルカの群れが迫る。イルカはイワシを海面に追い詰めて、一斉にトビウオの様にジャンプしてイワシに迫る。イワシの敵は海の中だけではない。海上には、これまた何百という海鳥たちが海面に追い詰められてくるイワシを待ち構えており、標的が目視できるようになると即ダイブ。この様子はすごい。カオス、戦場だ。とどめの一発はクジラ。すべてを、飲み込んでいく。
他にも、シャコとカニのボクシング、カニの一斉脱皮、ウミガメ孵化の瞬間などなど、「ダーウィンが来た!」のスペシャル版の様な見どころ満載。いやぁ、この作品、映像は本当に、素晴らしい。映像は。

では何がダメか。それはナレーションである。とにかく説教くせぇ。と言っても宮沢りえが悪いわけではない(たぶん)。製作者側の理念というか信念が浅すぎて目も当てられないのだ。
「中世の人間は海の神秘に気づいておらず、資源は無限にあると考えていた」…?とか、これまで絶妙なバランスでやってきた自然を人間がぶち壊そうとしているとか、ワイドショーレベルの情報でしか語られない。
おまけに自然と人間、生き物と人間、という構図でしか問題が語られない。人間はあくまでも操作主体であり、それ以外は操作対象であるという、近代科学思想が作り上げてきた人間観に凝り固まっている。そう、自然を破壊してきた人間観を製作者側がとっているのだ
これにはげんなりだ。せっかく素晴らしくめずらしい海獣達の様子をたっぷり見せてくれたのに、台無しじゃない。

そうそう、本編に一瞬だけ人間が登場します。しかも日本人。どのよなシーンかは鑑賞して確かめましょう。