第9地区(District 9, 2009, 米)

第9地区 〜新ジャンル誕生、マンガムービー〜


上映が終わって明かりが付いた時、気がつくと私はシートから半分ぐらい体がズリ落ちていた。開口一番「つ、疲れた…」。かなりのエネルギーが必要な映画です。この消耗感は何だろうか、その理由を考えてみた。

まず、ジャンルがよく分からないということ。私はこの作品がどんな映画なのかほとんど知らないまま観にいった。TVのCMを何度か目にしたぐらいで、他に情報はなるべく入れないようにしていた。なので、なんとなく想像していたのは「ボラット」のような社会派モキュメンタリー。宇宙人そのものよりも彼らを取り巻く人間模様を描きながら移民や人種問題に触れて、「やっぱ一番怖いのは人間だよねー」、みたいな。

確かに出だしはそんな感じだった。とりわけ主人公が武装した傭兵を引き連れて第9地区の住民から署名を取り付けに行く場面では、主人公のいかにもな言動は「北斗の拳」もびっくりのヒャッハ〜状態。
「聞こえるか、ポップコーンがはじけてるゼ!」
…もうドン引きです。
だけどいつの間にか、というか主人公にアクシデントが起きてからはテイストが一気に変わる。添え物だとばかり思っていた宇宙人の描写がメインになり、なんと「バイオ・ハザード」並みのグロホラーに!ぎゃー、き、聞いてないよー!
と思っていたら、いつの間にか銃ぶっ放しまくりのバイオレンスアクションになってる。えーっ!?
終盤になるとようやくドラマが展開されまとめに入る。終わってみればうまくまとまっていると思うけど、観ている最中はどんな態度で臨めばよいのかもう全く分からなくて、とにかく疲れてしまった。

次に、ハチャメチャだということ。だいたい登場人物にヒャッハーな奴が多すぎる。ヒャッハーな主人公は自分のことで頭がいっぱいで、終盤まで宇宙人に寄り添おうとしない(まあそこが面白いんだけど)。ほかにも義理の父親、傭兵団のリーダー、スラムのボスなど、みんなヒャッハーすぎてまともな言動をする奴はクリストファーぐらいしかいない。でも周りがあまりにヒャッハーなので、だんだんクリストファーの方がリアリティがないように思えてくる。いやいや、そもそもクリストファーを唯一の共感可能なリアルな者として描こうとしている時点で、何なんだこの映画って感じなんだけど。こういう一回転した価値も、観るのに頭使う(=疲れる、エネルギー使う)理由なんだろうな。

最後に、終わってみればなんとも漫画的だったということ。社会派でもモニュメンタリーでもなんでもない、完全な娯楽作品です。南ア、難民、軍事企業……いろいろなテーマを連想させる多くの具体的な題材が設定されているが、それらすべてを半ばネタにしたかのような娯楽性。これってどんなジャンルにカテゴライズされるんだろうか。まさかSFじゃないよね。