17歳の肖像(An Education, 2009, 英)

17歳の肖像 〜やっぱ邦題って大事〜


まずタイトルがすばらしい。「An Education」を「17歳の肖像」と読ませる邦題のセンスに、心が掴まれる。映画を好きな人ならきっと、「Girl, Interrupted」を「17歳のカルテ」と読ませたアンジー出世作を思い出すはず。昨年公開された「それでも恋するバルセロナ」に負けず劣らず、すばらしい邦題だ。このタイトルを目にしただけで、さあ一人の少女は一体どんな出来事と出会いどんな挫折や成長を経験するのだろうかと、期待が一気に大きくなる。

1960年代のイギリスを舞台とした、ちょっとすっぱすぎる青春映画。退屈な日常とは違う大人の世界への憧れから、若者特有の浅はかな行動力と未熟な決断力で、主人公ジェニーはどんどんやばい方向へ進んでいく。案の定、あこがれていた世界はあるとき一気に崩れ去り、ジェニーは嫌でも現実と向かい合う羽目になる。
ここで現実と向かい合うことができない人間の成れの果てが、きっとジャックなのだろう。彼はピーターパンというか、端的に病気だ。多くの人を巻き込みながらも現実を見ようとしない。ジャックの遊び仲間であるヘレンも、おそらく彼の被害にあっているのだろう。

ストーリーはちょっと地味かもしれない。だが奇をてらった感はなく、かといって退屈することもなく、非常に好感が持てる。それから登場人物のキャラクター設定が魅力的。それぞれが特徴を持つにはちょうどよい人数の脇役たち(と言ってもジェニーとジャック以外はみんな脇役なのだが)が、それぞれ意味ありげに登場する。例えばジェニーの母親、ジェニーのBFのグラハムなど。作中では彼らの心境やその後の様子は語られないが、こちらの想像力をかきたてるには十分だ。なかでも印象深いのがヘレン、そしてジェニーの教師ミス・スタッブズの二人。
ヘレンは教養がなく、単なる男のお飾りだ。知的な会話についていくことができず、それでいて妙に空気が読めるヘレンは、観ていてとても痛々しい。一方、ミス・スタッブズは高い教養を手にしながらも、今は一教師として生きている。なお映画における「教師」とは、ミヒャエス・ハネケ監督「ピアニスト」やマッド・デイモンとベン・アフレックの大出世作「グッド・ウィル・ハンティング」でも登場するように、しばしば夢の実現を他人に託す者として描かれる。
退屈な日常と夢のような世界とを行き来するジェニーにとって、この二人の女性は、それぞれの世界を象徴するロールモデルとして映るのだ。「彼はあなたの知性を尊重しているの?」一方の女性が発したこの言葉は、ジェニーの心に深く突き刺さる。

ちなみにヘレン役の女優さんはジェニーが目指すオックスフォード卒で、ミス・スタッブズ役女優さんは役柄と同様ケンブリッジ卒だそうです。