アウトレイジ(2010,日)

アウトレイジ 〜これが漫才なら趣味が悪い〜


北野武監督の作品をはじめから終わりまできちんと鑑賞したのは本作が初めてなので、これまでの彼の作風はさっぱり分からない。予備知識ゼロで鑑賞。

作品は端的に単調。それは人物描写、カメラワーク、時間の進み方、物語の進行の仕方、BGM(音楽はほとんど鳴らない)にまで及ぶ。これはシュールに見せるためのテクニックなのか、それとも単に下手なのか。このよく分からなさを考えてみる。

まず気になるのは人物描写の浅さ。10人弱のメインキャラクター全てにフォーカスすることは困難だ。なのになぜこんなにたくさん登場するのか?しかしおかげで暴力シーンはずいぶん中和された。
メインキャラの大半が直接的な暴力を振るい・振るわれる。もし彼ら一人ひとりにしっかりと焦点が当てられてその人間性が丁寧に描かれていたとしたら、この直接的な暴力描写に付き合うのは正直キツイ。キャラが薄っぺらいからリアリティも薄くなって画面を直視できるのだ(それでも5,6回は顔を背けたけれど)。
で、この暴力描写に慣れてくると、だんだん漫才に見えてくる。誰かが浅はかな考えを実行する(ボケる)→それをよく思わない人から仕返しされる(ツッコミ)。この繰り返しが、ノリツッコミの漫才のように見えてくる。
なお、これに気がついたのは、前の席に座っていた中年女性二人が残虐シーンのたびに声に出して(本人は声を殺しているつもり)笑っていたから。確かにカッターやら歯医者やら二枚舌やら手榴弾やら、一般の生活をしている観客からすればリアリティがなさ過ぎてギャグに見えてくる。
はたしてこれはギャグなのか、シリアスなのか、シュールなのか??もしもこの映画が、シュールなギャグとして作られているのだとしたら悪趣味としか言いようがない。暴力描写で笑いを取ろうだなんて全く好感が持てない。まぁ、たぶんギャグだけではないのだろう。薄っぺらいキャラの中でも、ビートたけし演じる大友と椎名桔平演じる水野、この二人だけは他に対してみょーに人間くさい。次第にギャグのようになっていく暴力のむなしさだとか哀しさだとか、まぁいろんなメッセージが浮かんできそう。この辺は観客それぞれで考えてくれってとこなのかな。
まとめると、先日鑑賞した「flowers」と同様、俳優さんの輝きで押し通したって感じです。
そういえば誰かがどこかで、この映画をタランティーノと比べていた。「イングロリアス・バスターズ」か「パルプ・フィクション」あたりだろうか。うーん、悪いけど、そこまでのセンスは、ない。